NTとは
妊娠初期の赤ちゃんの首の後ろにみられる液体の溜まりのことをNT(Nuchal Translucency)と呼びます。ほとんどの赤ちゃんに認められます。
NT肥厚の原因として、以下のような様々なものが考えられていますが、まだ、NTがみられる理由については明らかではありません。
- リンパ管システムの発達の遅れや発達の異常
- 心機能不全
- 細胞外液の成分構成異常 など
適切に測定するための認定制度
また、NTはスクリーニングで使用されている生理学的なマーカーの一つです。
使用するマーカーには再現性や客観性が必要です。
計測者によって測定された値が変化してしまっては、妊婦さんのリスクも検査者によって変化してしまい、適切な検査になりません。
その為、NTの計測には決められた基準があり、その基準をクリアできるとされた検査者にはイギリスのチャリティー機関であるFetal Medicine Foundationより認定が与えられています。
NT肥厚
NTが厚くなればなるほど染色体異常のリスクが高くなるといわれています。
実際の臨床の場でもNTが厚く、染色体異常の可能性が高いという説明を受けた妊婦さんにお会いすることがあります。
NTの厚さがどの位であれば、どのくらいの児に実際の病気があるのかを示したのが以下の図になります。
例えば、NT 4mmや5mmというのは、胎児超音波を日常的にしている産婦人科医であれば、実際に計測するまでもなく、一目見ただけで厚いなと感じるほどの厚さです。
そうであったとしても高々1/3の赤ちゃんにのみ染色体異常を認めます。
逆に、2/3の赤ちゃんには染色体異常はないということがわかります。
一方、NT厚さが厚くなればなるほど、心疾患や先天性横隔膜ヘルニア、骨系統疾患など様々な構造的所見がみられることもわかっています。
また、単に浮腫んでいるだけで構造学的異常が全くないこともあります。妊娠15週で再度確認すると、浮腫みは消えているということも多く経験します。
NTの厚さだけではなく他の検査も合わせて胎児の状態を判断しましょう
NT肥厚というと、イコール染色体異常というみられかたもします。
そのため、NT肥厚があるとNIPT(非侵襲的出生前検査)を提案されることもあるかもしれません。
しかし、NIPTだけでは上記した理由から不十分です。
超音波検査による適切な構造学的な評価も胎児の状況を知るためにとても重要です。
NT肥厚を指摘された妊婦さんへ
イギリスでの経験
私がイギリスのFetal Medicine Foundationのリサーチフェローとして胎児超音波検査のトレーニングをしていた時、Southend University Hospitalという大学病院の胎児診療科でも超音波検査をさせてもらえる機会がありました。
ある日、その大学病院で妊娠初期の超音波検査をしていたら、NT肥厚を認める赤ちゃんがいました。
NT肥厚だけではなく心臓も見え方がおかしく何らかの重篤な病気があるのかなと考えていました。
赤ちゃんのお母さんも、エコーの所見を伝えたときとても悲しまれ、私もバックヤードで少し落ち込んでいました。
NT肥厚はEnd of the worldではない
その時に、経験のある助産師さんに、「NT肥厚はEnd of the worldではないのよ」と言われました。その言葉を今でもとても印象的に覚えています。
今では自分でも本当にそう思います。
確かに、NT肥厚を持った赤ちゃんには現代の医学では治せないような病気があることもあります。
その一方で、治療すれば問題なく育っていく赤ちゃんもいますし、何もなく生まれてくる赤ちゃんもいます。
赤ちゃんにNT肥厚を指摘された妊婦さんやそのご家族はとても不安な気持ちでいることと思います。
胎児超音波検査や遺伝学的検査を通じて、赤ちゃんの状況を知り共に考えることで、妊婦さんの不安な気持ちが少しでも和らぐよう努力したいと思います。
悩まれている方は一度相談にいらしてください。
出生前診断に関連する項目
- 出生前診断
- 先天性疾患について
- 染色体について
- 染色体疾患について
- 妊娠に対する年齢の影響
- 高年齢妊娠
- ハイリスク・ローリスク
- 遺伝カウンセリングのご案内
- 妊娠初期超音波検査とコンバインドテスト
- 妊娠初期の胎児スクリーニングについて
- 妊娠中期の胎児ドックについて
- 妊娠後期の胎児ドックについて
- NTとNT肥厚について
- NIPT(非侵襲的出生前検査)
- 妊娠10週からの超音波検査+NIPT 10 Week Scan
- 3つのトリソミー
- クアトロ検査
- 羊水検査
- 絨毛検査について
- 染色体検査の種類について